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黄色の呪縛


黄梁一炊の夢

主人のクローゼットには黒と赤がありません。日本の男性だったらなかなか手を出さないような明るい色も難なく着こなす彼にも苦手な色があるようです。私の毛糸のリストにもそんな色がありました。染めた毛糸のアルバムをよく見ると黄色の数が際立って少ないことに気づきました。黄色の染料は前からよく使っていたのですが、黄色をそのまま他の色と混ぜずに使うことはまれでした。

ところが昨年の年末家族とアムステルダムのゴッホ美術館に行ったときのことです。ゴッホの作品は「ひまわり」を含め観たことはあったのですが、それほど心を動かされませんでした。正直なところ、「なんでこんなに多くの人がゴッホの作品に魅せられるのだろうか。精神的に病んで耳を切るといった彼の壮絶な人生が先走りしているのでは」などと思っていたほどです。アムステルダムのゴッホ美術館は展示の仕方もとてもよく、年代ごとに作品が並べられていて、「じゃがいもを食べる人々」で代表される初期の暗い色合いの作品から始まり、アルルの日差しの中でゴッホの長年の色への探求が形になっていく様子が素人でもすぐに分かるように展示されていました。その中で一際熱を発していたのが「ひまわり」でした。厚く塗られた絵の具の塊、黄色といっても一色ではなく、本当に数限りないニュアンスを持った「黄色」に圧倒させられました。

ゴッホが憧れた光に満ち溢れた国、日本ではお日様の有難さを忘れがちです。しかし、北ヨーロッパのモノトーンな長い冬を10年以上も経験すると、日差しが強くなり一気に世界が色づいていく春を本当に心待ちにしてしまいます。草花だけではありません。鳥も冬の間どこに隠れていたのか分かりませんが、体中を使って太陽を賛美する歌を歌い始めます。春から夏にかけての自然の生命力、躍動感そして快活さ、それを象徴する色が黄色なのでしょう。若いころはそれが全く理解できずにいました。

今、秋から販売する商品の準備中なのですが、黄色を前面に押し出した毛糸を沢山染めています。どんな物を編んでみようかと創造力を駆り立てる素敵な毛糸に仕上がりました。苦手だと思っていた色が年を経ることで魅力的に見えてくることがあります。みなさんも、一度クローゼットにはない色をお試しになってはいかかでしょうか。頑固な主人には赤い靴下をプレゼントしようと思います。

余談ですが、ゴッホは色の配色を考えるときに毛糸を使っていたそうです。なるほど、彼と私は毛糸繋がりだったのかと一人で萌えてしましました。

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